奇人変人
茶店のバイトしてるんですが、おかしな人たちがしばしばいらっしゃって、僕はそういう世俗からヌけちゃってるようでどこまでいっても俗な人は困惑しつつも嫌いではなくて、今日もいらっしゃいましたんだな、これが。
目立たないけど、ありがちで、おそらくもっとも世の中を住みにくくしている負の貢献者が。
そろそろ定年が近づいてる、60がらみのおじさん。スーツ姿で、まんべんなく薄くなった白髪でした。
その方がケーキとコーヒーをオーダーされたんですが、その際僕に「ちょっといいかな、言っておきたいことがある」という具合にごちゃごちゃ言い出しました。
「この店の衛生管理は大丈夫か。行き届いているか? 徹底してくれ」
→もちろん、しっかりしています、と答えざるを得ない。
「しっかりやって欲しい。おじさんはちょっと気にしてるんだ。気をつけてるんだ。君はハンセン病を知っているか。感染病なんだけど」
→ハンセン病!?
「ハンセン病にはなりたくないんだ。それに、その、お店で出てくるものは、どうなってるかわからないから。ツバを入れたりとか、混ぜたりとか、精液を入れるとか。精液を飲み物に混ぜるんだ。知ってるか君、精液、精子のことなんだが」
→YA☆ME☆TE! お店の中で初対面の私に向かって精液とか精子とか連呼しないで! もちろん笑顔で「滅相もないです。そういったことはございません」と答えざるを得ない。
「いやぁ、そうだけど、気をつけて欲しいんだ。本当にしっかりして欲しい」
→かしこまりました。
だいたいこういう流れでした。
話し方はいたって普通の方でした。TPOをもろともしないワードが飛び出しましたが、対話はいたって正常に成立してました。思考の全体像は無茶苦茶で、前提を見つめ直してなくて、でも因果関係は通ってました。外見も特に変なところはありません。まあ、コーヒーの泡かホコリか何かを必死ですくってソーサーにどかしていらっしゃいまして、動作にはどこかぎこちない、不快な固さがありましたが。要は必死なんですね。
極端な例でしたが、恐怖心から理性のバランスを失っているようでした。
「衛生管理を徹底しろ」というメッセージは、字面では正しいですが、彼が発するそれは強烈で執拗すぎます。繰り返し行き着き、強化されたメッセージでした。
ハンセン病や感染症や食品衛生への不安と恐怖を、ぬぐい切れず強迫的に培養し、その自家中毒が「ハンセン病の日本での新規発症が年間数名であり、リスクヘッジにコストを払うほうが損失が大きいと判断するのが妥当だ」「自分の中では理屈が通っているので、正義を行っているので、平然と猥雑な発言をする――それが周囲からの負の評価をもたらし、社会生活に不利を被る可能性を考慮して黙っていよう」といった常識的な判断をできなくしているようでした。
たぶん、ハンセン病のドキュメンタリーかなにかでもみて過剰反応してるのかな。たしかに見た目、すごく怖いですから。なりたくないですよ、誰だって。
精液がどうとかは、ウイルスを媒介しますからね。
食の安全とかも、最近よく取り沙汰されてますし。中国産が危ないとか。
そういやOL4人組が「脳内メーカー」で盛り上がってました。まあかわいいもんだけど、文字コードを(おそらくハッシュ関数だかにかけて結果がばらけるようにしてから)代入してるもので、意味とか関係性はないってわかって遊んでないと、大人はヤバイと思う。
いやそんなうるさいこと言うつもりではなくて、卑猥な言葉もしゃべらせてしまう正義と、占いで騒ぐ無邪気さはつながってるから。
占いは大いに結構ですよもちろん。意味のないとこから意味を見出すのは、人間のかけがえのない能力です。壁のシミが顔に見えたことのない人に、絵が描けないように。
